しぞくのうまれたひ|紫族神話 絵本版|ドロシードロンの始まりの物語

ここは、紫族の魔王ドロシー・ドロン(でで)の世界へとつながる《紫族神話》の絵本ページ。
ドロンとドロシー、そしてむらさきの魔物との出会いから、「しぞく」が生まれる日までの物語を、やさしい言葉で読めるようにしています。

世界観の詳しい設定は World(世界観)、用語の解説は Glossary(用語集)も合わせてどうぞ。
スマホの方は、縦画面で読むのがおすすめです。

第1章:ドロンとドロシー

むかしむかし、

ふたりの「なかよし」が いました。

ひとりは、

強くて まっすぐな 戦士ドロン。

魔物が こわくても、

「だれかを 守るためなら、

 ぼくは 戦う。」

と、いつも まっすぐに 生きようとする 人でした。

もうひとりは、

やさしい 魔法使いの ドロシー。

こわい 魔物を 見ても、

「もしかしたら……

 話が できるかも……。」

と、そっと ほほえむような 人でした。

ふたりは

ちがうところが たくさん ありましたが、

それでも

とても とても

仲よし でした。

けれど ドロンには、

ひとつだけ だれにも 言わない ことが ありました。

「魔物」という ことばを 聞くたびに、

胸の 奥が きゅっと 痛むのです。

その理由を、

ドロンは だれにも 話したことが ありませんでした。

そんな ある日の こと。

ふたりが 道を 歩いていると、

森の ほうから

かすかな——

ふしぎな 声が 聞こえてきました。

ドロンは 思わず 剣を にぎり、

ドロシーは 魔法の 光を

手のひらに そっと ともしました。

ふたりは 目を 見合わせ、

ゆっくりと その声の するほうへ、

森の 中へと

歩みを すすめて いきました。

それが、

ふたりの 運命を 変える 一歩に なるとも 知らずに。

ドロンとドロシーが並んで歩いている挿絵

第2章:ふしぎな森へ

ふたりが 声の したほうへ

進んでいくと、

そこには

深く しずかな 森が 広がっていました。

森の 中は

すこし 暗くて、

しん……と しています。

ドロンは

辺りを うかがいながら 言いました。

「気をつけろよ、ドロシー。」

ドロシーは

かすかに ほほえんで こたえます。

「だいじょうぶ……。

 いっしょ だから。」

そのとき です。

森の 奥から、

むらさき色の 光が

ふわりと ゆれました。

「……なんだ?」

ドロンが 立ち止まります。

ドロシーは

その 光を 見つめながら、

胸が 少しだけ

ドキン、と おどるのを 感じました。

まるで、

だれかが

「おいで。」

と ささやいた みたいでした。

ドロンは 剣を かまえ直し、

ドロシーは 魔法の 光を 強めます。

ふたりは

そっと うなずきあい、

ゆっくりと 森の 奥へ

歩き出しました。

第3章:静かなまなざし

森の 奥へ すすむと、

ふたりは 大きな 木の かげで

ひとりの 子どもを 見つけました。

子どもは

ぐったりと 倒れていて、

そのまわりには

なにかに 襲われたような

深い 足あと が 残っていました。

その そばに——

大きな むらさきの 魔物が、

静かに 立っていました。

ドロンは とっさに

叫びました。

「ドロシー! あぶない!!」

そして 剣を にぎりしめます。

むらさきの 魔物は、

ふたりを じっと 見つめていました。

こわい 姿の はずなのに、

その 目は どこか

さみしそうで、

とおい 夜を ひとりで

越えてきたような ひかりを していました。

ドロンの 胸の 奥が、

ちくりと 痛みました。

けれど その痛みを、

彼は 力ずくで 押しこめます。

ドロシーは

ドロンの うでを そっと つかみました。

「……まって。

 なにか……おかしいよ。」

なにが おかしいのかは、

まだ わかりません。

でも ふたりは このとき、

たしかに

なにかが 静かに

揺れはじめたのを

感じていました。

ドロンとドロシーが並んで歩いている挿絵

第4章:傷だらけの魔物

ドロンが

剣を にぎりしめた そのとき——

森の 奥から、

ガサガサッ!

と 大きな 音が ひびきました。

やぶの あいだから、

もう ひとつの 大きな 獣が

とび出してきたのです。

「ドロシー! かくれろ!!」

その 瞬間——

むらさきの 魔物が

倒れている 子どもの 前へ

とび出しました。

ドシンッ!!

大きな 獣に からだごと ぶつかり、

その いきおいで

はじきとばします。

ドロンは その場に

たちつくしました。

むらさきの 魔物の

背中も、

腕も、

足も——

たくさんの 傷で

おおわれていました。

ドロシーが

思わず つぶやきます。

「……あれ、きっと……

 この 子ども を 守った 傷だよ……。」

ドロンは

魔物の 傷を じっと 見つめたまま、

静かに 口を ひらきました。

「……魔物が……

 人を……

 助けた……?

 そんな はず……。」

言葉は 口まで 出ても、

その 先が

どうしても 言えませんでした。

むらさきの 魔物は

うなり声を あげましたが、

それは

おどろかせる ような 声ではなく、

どこか、

「もう こわくないよ……。」

と 伝えている ような、

やさしい 響きでした。

ドロンは

強く にぎっていた 剣を、

少しだけ ゆるめました。

ふたりは このとき はじめて、

自分たちの 知らない

「魔物の やさしさ」に

ふれて しまったのです。

ドロンとドロシーが並んで歩いている挿絵

第5章:すれちがう心

むらさきの 魔物は

まだ 子どもの そばに 立ち、

よろめきながらも

そこから 動こうと しません。

ドロンは

その姿を じっと 見つめていました。

「……魔物が、

 人を 助ける なんて……

 おれには、まだ 信じられない。」

ドロシーは

そっと うなずきました。

「……うん。

 ドロンが そう思うのも、

 わかるよ。」

ドロシーは

むらさきの 魔物を

やさしい 目で 見つめました。

「でもね……

 ぼくは この 魔物と、

 わかり合えるって

 信じたいんだ。」

ドロンは

口を ひらきかけましたが、

言葉が うまく 出てきませんでした。

その目には、

「倒さなければ ならない」

という 強い 思い と、

いま 目の前の 魔物への

ゆらぐ 思い が

入りまじっていました。

森の 風が

ふたり の あいだ を

そっと 吹きぬけました。

すぐ そばに いる のに、

ふたりの 心は

ほんの少しだけ

ちがう ほうへ

かたむき はじめて いました。

むらさきの 魔物は

ふたりの 姿を、

ただ 静かに

見つめつづけていました。

その 目の 奥には、

言葉に ならない

なにかの 影が、

たしかに ゆれていました。

ふたりは まだ

その意味を 知りません。

第6章:届かない言葉

子どもは

木の 根元で

まだ 静かに 眠っていました。

ドロンは

その様子を 見つめながら、

低い声で つぶやきました。

「……もし、

 あの 魔物が

 急に あばれだしたら……

 あの 子が 危ない。」

ドロシーは

胸の どこかが

きゅっと しめつけられるのを

感じました。

「……でも、ドロン。

 あの子は まだ 一度も、

 わたしたちを

 襲って ないよ。」

ドロンは

眉を よせ、

魔物を にらみました。

「今は そうでも、

 いつ 変わるか わからない。

 魔物って そういう ものだ。」

ドロシーは

そっと 首を ふりました。

「……“魔物だから”って、

 みんな 同じに

 決めつけて ない……?」

ドロンは

一瞬だけ ことばに つまって、

それから

自分に 言い聞かせるように

言いました。

「おれは 戦士だ。

 人を 守るために、

 魔物と 戦ってきた。

 それが……おれの 役目なんだ。」

ドロンの 手は

無意識のうちに

剣の 柄を

強く にぎりしめていました。

ドロシーは

その 手を 見つめながら、

小さな声で たずねました。

「……ねえ、ドロン。

 その 手は……

 だれを いちばん 守りたいの……?」

その言葉は、

かすかな さざ波 のように

森の 静けさへ

静かに ひろがって

消えていきました。

ドロンは

すぐには 答えられませんでした。

ふたりの あいだに、

目に 見えない 深い きれめの ような ものが、

入りこみ はじめていました。

第7章:ぶつかる願い

やがて——

ドロンは

ゆっくりと 剣を 抜きました。

月の 光が

その刃を

ひっそりと てらします。

ドロシーは

むらさきの 魔物の 前に 立ち、

両手を ひらきました。

「ドロン……

 やめて。

 ここを 通す わけには いかない。」

ドロンは

目を ふせたまま 答えました。

「どいてくれ、ドロシー。

 おれは……

 もう 二度と、

 だれも 失いたくないんだ。」

ドロシーは

その 言葉に

はっと しました。

「……“二度と”……?」

ドロンは

くちびるを ふるわせ、

胸に 手を あてました。

「ちいさいころ……

 おれの 家族は、

 魔物に 襲われた。

 おれだけが、

 のこされた。」

ドロシーの 息が

すこしだけ とまりました。

ドロンは

歯を くいしばりながら

つづけました。

「だから おれは、

 剣を とった。

 こわくても、

 にげたくても、

 それでも 戦えば——

 だれかを 守れると

 思ったからだ。」

ドロシーの 目に、

静かな 涙が たまりました。

「……そんな 大事な こと……

 どうして ひとことでも

 言ってくれなかったの……。」

ドロンは

かすかに 首を ふりました。

 「おれは 強く なくちゃ いけない。

 こわいなんて、

 言っちゃ いけないんだ……。」

ふたりの あいだに

重い 沈黙が おりました。

ドロンは

その沈黙を

自分で 断ち切るように、

剣を かまえなおしました。

「……それでも おれは 守る。

 おれの やりかたで。」

ドロシーも

涙を ぬぐい、

魔物の 前から

一歩も 動きませんでした。

「ぼくも 守るよ。

 ドロンも、

 この 子どもも、

 あの 魔物も。

 わたしの やりかたで。」

月の 下で——

ふたりは

決して まじりあわない

「願い」を かかげて

向かいあいました。

そして——

シャッ!

ドロンの 刃が 走り、

ぱあんっ!

ドロシーの 光が

それを はじき返しました。

戦いが、

静かに はじまりました。

ドロンとドロシーが並んで歩いている挿絵

第8章:よごれていく光

「これ以上……

 だれも 失えないんだ!!」

ドロンは

叫ぶように ふみこみ、

剣を ふりおろしました。

ズバッ!!

刃が 夜を さき、

ドロシーの 魔法が

その一撃を 強く 受け止めます。

ばあんっ!!

光が 四方に とびちり、

熱い風が

ふたりの あいだを ふきぬけました。

「ドロン!!

 やめてくれ!

 きみも……

 ぼくは 守りたいんだ!

 たたかう理由なんてないよ!」

ドロンは

歯を くいしばり、

叫び返しました。

「だったら、

 どうして おれの 前に

 立ちはだかるんだよ!!」

ふたりの 言葉が

夜に ぶつかり、

刃と 光が

何度も かちあいました。

そのとき——

ドロシーの うしろで、

むらさきの 魔物が

胸を おさえ、

小さく うずくまりました。

「……あ……。」

それは

怒りでも、

叫びでも ない 声。

深い かなしみだけが

にじんだ、

かすかな うめき でした。

魔物は

ふたりに 向かって

一歩だけ、

手を のばしかけました。

けれど——

すぐに その手を、

こわいものに ふれる みたいに

ひっこめて しまいました。

自分が

なにを もとめているのか、

自分でも

わからないように。

ドロンは

その 仕草を 見て、

はげしく 心を ゆさぶられました。

「……やめろ……。

 そんな、“人みたい”な 顔を……

 するなよ……。」

ほんの 一瞬——

剣が とまりかけました。

でも、

その ゆれに 気づいてしまった 自分を、

ドロンは 許せませんでした。

「許せる わけ……

 ないだろ……!!

 おれが……

 魔物を……

 許しちゃ……

 いけないんだ!!」

ドロンは

自分の よわさを

ふりはらう ように、

さらに 強く 踏みこみました。

ドロシーは

涙を こぼしながら

魔法を つき出しました。

「……ドロン!!

 そんなに あなたを

 苦しめている のは……

 本当は、

 なに……!」

ぱあああんっ!!

光と 刃が

爆ぜるように ひらき、

木々が ざわり と ゆれました。

むらさきの 魔物は、

胸を おさえたまま、

ただ 小さく ふるえています。

その声は

助けを もとめる でも、

ゆるしを 願う でも なく、

理由の わからない 痛みが

心の 奥で

ずっと うずいているような 声でした。

その意味を、

ドロンも、

ドロシーも、

まだ 知りません。

けれど——

その たびに、

ドロンの 背中には

小さな 針のような ものが

ささりつづけて いました。

「——もう やめてくれ!!!

 そんな 声を 出すな……!!」

ドロンは

涙を ふりはらう ように

剣を ふりおろし、

ドロシーも また

泣きながら

まぶしい 光を ふりかざしました。

戦いは、

もう 完全に——

引き返せなく なっていました。

ドロンとドロシーが並んで歩いている挿絵

第9章:しぞくのうまれたひ

「ドロン……

 やめて……もう……。」

「ドロシー……

 どいてくれ……。」

ふたりの 声は、

もう かすれて いました。

そして——

ガンッ!!

ドロンの 剣が

ドロシーの 胸を かすめ、

ぱあんっ!!

ドロシーの 光が

ドロンの からだを

つらぬきました。

ふたりは そのまま、

ゆっくりと

地面に 倒れました。

「……ドロシー……!」

「……ドロン……!」

おたがいの 名前を

呼ぶ声は、

息の ように

小さく なっていきました。

その すぐそばで、

魔物が

ふるえながら

ふたりを 見つめました。

逃げる ことも、

声を あげる ことも

できません。

ただ——

胸の 奥が、

しめつけられる ように

痛かったのです。

「……ぁ……あぁ……。」

魔物の 目から、

ぽろりと

静かな 涙が

落ちました。

その 涙が

地面に 落ちた とき——

魔物の 胸が、

ふわりと

むらさきに 光りました。

ずっと

ずっと 静かに

ひそんでいた

光。

夜の 森に、

まばゆい むらさきの 光が

いっきに 広がりました。

鳥の 声が

ほそく ひびきました。

朝の ひざしが

木の あいだから

そっと こぼれ落ちました。

その 光を あびて、

倒れていた 子どもが

ゆっくりと

目を さましました。

「……ん……?」

子どもは

まぶしい 朝の 光に

目を ほそめながら、

起きあがりました。

そして——

気づきました。

「……あなたは……

 だれ……?」

むらさきの 子どもは、

すこしだけ 首を かしげて、

朝の 風に ふかれる ように、

静かに その 子を 見つめました。

森の 風が

ささやきました。

「これが——

 しぞくの

 生まれた 日。」

ドロンとドロシーが並んで歩いている挿絵

読んでくれてありがとう

ここまで《紫族神話》の絵本を読んでくれてありがとう。
この物語は、紫族の魔王VTuberドロシー・ドロン(でで)の世界観の原点になっています。
もっと深く知りたい方は、World(世界観)Glossary(用語集)、そして 配信リンクも覗いてみてください。